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「注目論文:Our Focus on Genetics」日本人における身長のポリジェニックスコアの地理的多様性

日本人における身長のポリジェニックスコアの地理的多様性

一色 真理子

東京大学理学系研究科 ヒトゲノム多様性研究室

アルバートアインシュタイン医科大学 遺伝学科

 

Geographic variation in the polygenic score of height in Japan.

Mariko Isshiki, Yusuke Watanabe, Jun Ohashi

J Hum Genet. 2021;66:1053-1060.

 

論文のハイライト

日本人の平均身長には南北の勾配(日本列島の北側、特に日本海側の地域の平均身長は、南側の地域に比べて高い)がある。この勾配は100年以上続いていると言われ、日照時間などの環境要因との関連がこれまでに調べられてきた。一方、ヒトの身長はそのバリエーションの8−9割が遺伝によって決まる、極めて遺伝率の高い形質でもある。そこで、本研究では、日本人の平均身長における南北の勾配に対する遺伝的な寄与を明らかにすることを目指した。

はじめに、47都道府県全てを含む日本人10,840名の常染色体SNP遺伝型データからポリジェニックスコアを計算した。ポリジェニックスコアとは、身長のような複数の遺伝子が関与する多遺伝子形質に対して用いられる、各個人の遺伝的に定義される形質を定量的に表した指標である。GWASによって推定された効果量(ここではある遺伝的多型を一つもつごとに増える身長)と各個人の遺伝型を用いて計算できる。得られたポリジェニックスコアから各都道府県のポリジェニックスコアの中央値を算出し、文部科学省の学校保健統計調査に基づく17歳男女の各都道府県における平均身長との相関を調べたところ、男女ともに有意な相関が見られた。先行研究から沖縄県の平均身長は本州に比べ顕著に低いこと、遺伝的にも大きく異なることがわかっていたため、沖縄県を含まない場合の相関も調べた結果、有意な相関が男女ともに見られた。このことから日本人の身長の地理的分布は少なくとも部分的には遺伝的に説明できることが示唆された。

次に、以前の我々の研究において、日本人の集団構造は地理的位置関係と祖先集団(縄文・弥生の割合)によって主に説明されるという結果を得ていることから、祖先集団によるポリジェニックスコアへの影響も調べることとした。その結果、個人レベルにおいても、都道府県レベルにおいても、大陸集団との遺伝的距離とポリジェニックスコアの間には有意に負の相関が見られた。即ち、大陸系渡来人に由来する割合の高い人ほど高い身長をもつ傾向が見られた。このことは、古墳時代や弥生時代の人骨から推定される身長が縄文時代の人骨から推定される身長よりも高いという考古学的証拠とも一致する。

本研究の結果、日本人の身長の分布の一部は遺伝的に説明が可能であり、過去の混血の影響を強く受けていることがわかった。本研究は、日本人の表現型の分布とその遺伝的背景について都道府県レベルで解明した初めての研究であり、今後、様々な形質について地理的分布とその遺伝的背景を理解することにより、日本人の集団史や環境への適応についての理解を深めることができるだろう。

 

工夫した点、楽しかった点、苦労した点など

ポリジェニックスコアはBiobank JapanやUK Biobank(UKBB)などのバイオバンクによる大規模なGWASの出現により現在進行形で発展しつつある手法であり、その運用についても未だ議論中の手法になります。例えば、ポリジェニックスコアは、元となるGWASの集団に階層構造があった場合、その影響で値が過大評価されることがあることが知られていますが、いわゆる「正解」の解決策はまだ存在していません。そのため、本研究でも身長とポリジェニックスコアの相関が単なる集団階層化の影響ではないことを示すために、UKBBから効果量をとってきたり、沖縄を除いたGWASを行って効果量を得たりと色々と工夫しました。

また、本研究はヤフー株式会社(当時)との共同研究であり、紀尾井町にある本社に解析のために何度もお邪魔させていただきました。社員の方々には毎回何時間も解析にお付き合いいただき大変感謝しております。学生のうちに企業との共同研究に携わることができ、データ管理の仕方など技術的な面はもちろん、仕事に対する取り組み方など考え方の面でも勉強になる点が多く良い経験になりました。

 

研究室紹介

東京大学ヒトゲノム多様性研究室では、大橋順教授のもと、主にアジア・オセアニア地域のヒト集団において、自然選択がゲノムに与える影響や集団の起源・移住・混血過程、感染症への遺伝的適応、体型・脂質代謝関連多型の探索など様々なテーマの研究に取り組んでいます。研究の自由度も高く、アットホームな雰囲気です。ご興味のある方は研究室ホームページ(http://www.bs.s.u-tokyo.ac.jp/~humgendiv/)をご覧ください。

写真の説明:研究室メンバーの写真。右から2番目が筆者。