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運動発達遅滞と大頭症を伴う新規症候群:CTR9遺伝子異常症

運動発達遅滞と大頭症を伴う新規症候群:CTR9遺伝子異常症

 

鈴木寿人

慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター

 

De novo non-synonymous CTR9 variants are associated with motor delay and macrocephaly: human genetic and zebrafish experimental evidence

Hisato Suzuki, Kana Aoki, Kenji Kurosawa, Kazuo Imagawa, Tatsuyuki Ohto, Mamiko Yamada, Toshiki Takenouchi, Kenjiro Kosaki, Tohru Ishitani.

Hum Mol Genet. 2022; ddac136. doi: 10.1093/hmg/ddac136.

 

(1)論文のハイライト

全国に確定診断が得られていない未診断疾患患者が数万人いると推計されている。近年、ゲノム解析技術の進歩により、約2万種類の遺伝子を網羅的に解析することが可能となった。「未診断疾患イニシアチブ(IRUD)」は彼らに対し、網羅的遺伝子解析により、診断に導くプロジェクトである。このプロジェクトの結果、参加した未診断疾患患者の約40%がさまざまな遺伝性疾患の診断が得られた。しかしながら、約半数の患者が原因不明のままである。この中には、まだ確立していない新規疾患が含まれていると考えられている。

筆者らはIRUDを通じて、2,000家系を越える遺伝子解析を行った。その中から、大頭症と運動発達遅滞という同一症状を持つ非血縁者の2名の患者に共通するCTR9(CTR9 Homolog, Paf1/RNA Polymerase II Complex Component)遺伝子にde novoのミスセンスバリアントを持つことを突き止めた。CTR9遺伝子はこれまで単一遺伝性疾患として報告されたことはなかった。そこで、筆者らはIRUD-beyondモデル動物等研究コーディネティングネットワークによる希少・未診断疾患の病因遺伝子変異候補の機能解析研究(J-RDMM)を通じて、大阪大学・石谷太教授と共同研究を開始し、ゼブラフィッシュを用いた機能解析を行った。CRISPR-Cas9システムを用いて、Ctr9遺伝子をノックアウトしたゼブラフィッシュを作製し、レスキュー実験と過剰発現実験を実施した。Ctr9をノックアウトしたゼブラフィッシュは、水槽内の泳ぎが緩慢になり、水中での姿勢制御も困難になった。またヒトの大脳に相当する部分を蛍光染色し大きさを測定すると、有意に大きくなっていることが確認された。また、レスキュー実験ではヒト野生型CTR9を導入したものは、水中の姿勢も改善し、頭の大きさも正常化したのに対し、変異型CTR9を導入したものは回復が見られなかった。過剰発現実験では、野生型CTR9の過剰発現では変化がなかったのに対し、変異型CTR9の過剰発現では、ノックアウトしたものと同じ表現型となった。これらの結果から、患者で同定されたミスセンスバリアントはDominant Negative効果を有し、正常のCTR9としての機能を喪失していることがわかった。

2名の共通する症状を呈する患者を同定し、モデル動物を用いた機能解析を行った結果、CTR9遺伝子は大頭症と運動発達遅滞を呈する新しい症候群の原因遺伝子であることを明らかにした。

(2)工夫した点、楽しかった点、苦労した点

私自身は小児科医であり、現在も臨床を続けています。三次医療機関であっても病気の診断できない患児が少なくありません。IRUDに参加し遺伝子解析を行うようになって、診断の糸口が見つけ出せることは非常に嬉しく感じます。本研究では、膨大な遺伝子解析データの中から、類似した症状を呈し、共通する遺伝子のバリアントを持つ家系を見つけ出すことがボトルネックになりますが、研究室のメンバーと協力し、幸運にも見つけ出すことができました。また、新規疾患である可能性を受けて、ゼブラフィッシュの機能解析を担っていただき、非常に早いスピードで機能解析結果を出していただいた大阪大学の石谷教授、青木先生に大変感謝しております。多くの人の助けを借りた研究でしたので、論文がアクセプトされたことは喜びとともに安堵の気持ちでいっぱいでした。

 

(3)研究室紹介

慶應義塾大学臨床遺伝学センターは小崎健次郎教授のもと、希少疾患・遺伝性疾患の外来診療を週3日行っております。さまざまな遺伝性疾患を抱える患者さんを診察することができます。また、日本全国からさまざまな症状を抱える未診断疾患患者のゲノム解析を行っております。RNA-seq、ロングリード解析等の最先端技術も積極的に導入し、未診断疾患患者の病態解明に尽力しています。遺伝子解析の興味のある方はぜひ連絡をください。

最後列の左から4番目が筆者、前列右から2番目が小崎健次郎教授。