レトロトランス・ゲノム解析を用いた、サルコイドーシスにおいて異常発現する内在性レトロウイルスTHE1B融合トランスクリプト群の同定
レトロトランス・ゲノム解析を用いた、サルコイドーシスにおいて異常発現する内在性レトロウイルスTHE1B融合トランスクリプト群の同定
国立精神・神経医療研究センター メディカル・ゲノムセンター ゲノム診療開発部
船隈俊介
Retrotrans-genomics identifies aberrant THE1B endogenous retrovirus fusion transcripts in the pathogenesis of sarcoidosis.
Funaguma S, Iida A, Saito Y, Tanboon J, De Los Reyes FV, Sonehara K, Goto YI, Okada Y, Hayashi S and Nishino I.
Nature Communications, 16:1318, 2025.
論文のハイライト
サルコイドーシス(サ症)は、肺、リンパ節、皮膚、眼、心臓、神経、筋などの様々な臓器に肉芽腫を形成する全身性の炎症性疾患である。遺伝因子と環境因子の相互作用によって発症すると考えられており、国内外の研究者によってゲノムワイド関連解析や候補遺伝子アプローチなどからHLAをはじめ幾つかの疾患易罹患性SNVが発見されてきた。しかしながら、サ症の根本的な病態解明には至っていない。
一方、レトロトランスポゾン(Retrotransposable element: RTE)はヒトゲノム配列の43%を占める可動性因子であり、Short Interspersed Nuclear Element (SINE), Long Interspersed Nuclear Element (LINE)およびEndogenous RetroVirus (ERV)に大別される。それぞれAluファミリー、L1ファミリー、SINE-VNTR-Alu(SVA)、ERVファミリーなどは遺伝学研究者にとっても馴染みの深いリピート配列であろう。それらの配列は、一般的に体細胞では強度にメチル化されているが、一部のRTEは多発性硬化症や筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィーなどの神経変性・筋疾患やがん(リンパ腫)などにおいて、遺伝子の破壊やエクソン化、または近傍の遺伝子のエンハンサーとして疾患に関与しているとの報告がある。THE1(Transposon-like Human Element 1B)エレメントも、また、主に真猿類のゲノムに見出されるERVファミリーの一員であり、4種類のTHE1サブファミリー(THE1A、THE1B、THE1C、THE1D)に分類される。
本論文では独自に開発したRTE解析用コンピュータ解析プログラム(COFFEE;以下COFFEE法)を用いて、サ症において19種類のTHE1B融合転写産物(THE1B fusion transcripts: THE1B/FTs)が異常発現していることを世界で初めて報告した。さらに、シングル核/シングルセルRNA-seqにより、THE1B/FTsがサ症の肉芽腫関連マクロファージで発現していることを見出した。
ここでは、先ず、COFFEE法を紹介したい。COFFEE法は、Comprehensive Fetching of Fusion transcripts between ERVs and Exons of human genesの略称であり、ゲノムワイドにRTEsと融合するトランスクリプトを同定する方法である。簡単に概要を示すと、疾患―対照群のRNA-seqから得られたbamファイルデータを用いて、RTE融合配列と発現量を同時に解析する、つまり、標準ゲノム配列の全RTEについて、RTE/FTの形成の有無を判定し、形成が確認された場合にはその発現量および構造を一括して解析できる方法である。遺伝子構造に関しては、RTEと近傍遺伝子とのジャンクション部位の位置を手がかりとして、エクソンーイントロン構造から「ERV―イントロンーエクソン(エクソン様断片)」をスクリーニングする。一方、発現量に関してはEMアルゴリズムを用いて各RTEの発現量を推定した後に負の二項分布に基づくモデルにより対照群と比較して有意に発現量の高いRTEを収集する。最終的にゲノム情報と発現量に関する情報を統合し、疾患群で有意に発現量の高いRTE 融合エクソン断片を発見できる。その後、患者のロングリードRNA-seqから完全長のcDNA構造を決定し、更なる発現解析のための標準配列として活用する。
検体は、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)・筋レポジトリに登録されたサルコイドミオパチー(sarcoid myopathy: SM)16症例およびSM以外の筋疾患症例400例を対照例として用い、それぞれの凍結筋組織からRNAを抽出して解析した。解析法は、RTEの疾患トランスクリプトームから全ゲノム解析へのレトロトランス・ゲノミクス(RTEの発現を指標にした逆行ゲノミクスという意味)を展開した。段階的な発現解析を行った結果、SM群で高発現する19種類のTHE1B/FTsを発見した(調整済みP値 < 0.05、log₂FC > 2)。そのうち15種類は、主要な公共ゲノム・遺伝子データベースに未登録の新規融合トランスクリプトであった。
さらに、米国のGene Expression Omnibusに登録されていたトファシチニブを投与した6例の皮膚サ症例群由来のRNA-seqデータ(3例の完全寛解例、3例の部分寛解例)と2例の対照由来のデータを解析した。その結果、トファシチニブを6ヶ月間投与した完全寛解例において19種類中8種類のTHE1B/FTsの発現がではほぼゼロまで低下することを認めた。次に、それら8種類のTHE1B/FTsの発現細胞を同定する目的で、SMのシングル核RNA-seqデータ解析を実施し、肉芽腫を構成するマクロファージで発現していることを見出した。加えて、皮膚サ症のシングルセルRNA-seqデータでも同様の結果を得た。一方、結核のシングルセルRNA-seqデータでは、THE1B/FTsが主に肉芽腫外のマクロファージに発現しており、同じ肉芽腫性疾患でもサ症と結核ではTHE1B/FTsを発現する細胞種に差異があることが示唆された。
他方、サ発症にはアクネ菌や結核菌の関与が示唆されている。そこでTHE1B/FTsの発現と関連するPattern recognition receptorの候補を同定するために、サ症のシングル核セルRNA-seqデータを用いてピアソンの積率相関係数を算出しgene-gene relationshipを解析した。その結果、THE1B/FTsとTREM2との間に強い相関が認められ、THE1B/FTs を発現する肉芽腫関連マクロファージに限局してTREM2も発現していることを見出した。加えて、トファシチニブを服用した皮膚サ症例群由来のRNA-seqデータの解析により、TREM2も8種類のTHE1B/FTsと同様に完全寛解例では発現量がほぼゼロまで低下することが判明した。さらに、解析の過程で、精巣特異的遺伝子SIRPDが皮膚サ症で発現していることを見出し、5’上流のSIPRB1のエクソン1からread-throughするSIPRB1-SIPRDというトランスクリプトであることを認めた。このトランスクリプトも肉芽腫関連マクロファージで発現していた。
以上、本論文ではサ症において、THE1B/FTsの発見を契機にして、ロングノンコーディングRNA、異所性発現するトランスクリプトがゲノムワイドに異常発現することを見出した。病態解明に繋がる今後の機能解析に期待したい。

工夫した点、楽しかった点、苦労した点など
THE1B/FTsがサ症で異常発現しているだけでなく、それらが主に肉芽腫関連マクロファージで発現していることは、THE1B/FTsの病態形成との関与を示唆する知見であり、初めは想定していなかった結果でした。段階的なスクリーニングの実施、RTE/FTsの簡便かつ網羅的な解析手法およびシングル核/シングルセルRNA-seq データ解析におけるRTE/FTsの発現を検出する方法の確立など、手探りで頭を悩ませながら前進しました。楽しかった点は、COFFEEを開発しながら、サ症ゲノムの未開拓領域を一歩一歩進んでいく醍醐味を味わえたことです。苦労した点は、特にありませんでした。最後に、ゲノム研究のノウハウやスキルのご指導いただいた飯田有俊先生ならびに筋疾患の病態研究において経験と知識を教授下さった西野一三先生、そして、本研究にご指導、ご協力頂いた共著者の先生方、NCNPメディカル・ゲノムセンターの方々に感謝いたします。
研究室紹介
NCNPメディカル・ゲノムセンター ゲノム診療開発部(西野一三部長)臨床ゲノム解析室(飯田有俊室長)では、これまでin houseの筋疾患ゲノムデータベースを構築し、運用、管理しながら、NCNP神経研究所や国内外の研究機関と共に様々な遺伝性筋疾患の新規原因遺伝子を発表してきました。この10年間で11疾患の新規原因(病態)遺伝子を同定しています。今般、ショートリード全ゲノム解析のみならず、ロングリード全ゲノム/ロングリードRNA-seqを併用した多層シークエンス解析により稀少難病はもとより炎症性(神経筋)疾患分野にまで研究の裾野を拡げてゲノム解析を展開しています。特にサ症研究からCOFFEE法を開発して、RTEに基づくレトロトランス・ゲノミクスという研究体系を確立しました。本研究体系は、サ症におけるRTE融合トランスクリプト研究のみならず、他疾患にも応用可能な汎用的な手法であり、既に難病研究、がん研究分野の研究者からの問い合わせも受けています。

左より西野一三部長、船隈俊介(本人)、飯田有俊室長